鶴岡八幡宮と鎌倉国宝館

 鶴岡八幡宮は、源頼義が、前九年の役の戦勝を祈願して、京都の石清水八幡宮を鎌倉に勧請したのが始まりです。更に、頼義の長子八幡太郎義家が修復を加えました。義家の4代後の源頼朝が鎌倉幕府を開いた後は、武家社会の発展とともに発展を遂げていきました。

 

<画像の説明>画像1:鶴岡八幡宮本殿側面 画像2:鶴岡八幡宮本殿正面


 今の観光ブームは、鎌倉も例外ではありません。多くの外国人、着物を着た女性等大変な賑わいで、鶴岡八幡宮の写真もなかなか思うようには撮れません。
 公暁が実朝を殺害した際に身を隠したと伝えられていた隠れ銀杏の木は、2010年3月10日の大風で倒壊しましたが、今はわずかに芽が出ている状況です。身を隠せるくらい大きくなるのは、何百年もかかるのでしょう。

 

<画像の説明>鶴岡八幡宮と隠れ銀杏の木の切り株


 鎌倉国宝館は、昭和3年に開館しました。おそらく市レベルの博物館では最も早い開設です。関東大震災で被災した文化財を保存、そして一般の人に展示するために創設されたそうです。館内は、お寺の須弥壇に見立てたところに展示品が置かれています。展示品まで近く、しかもガラスの仕切りもなく直接鑑賞可能です。実際に寺院に祀られた状態をできる限り再現したいということだそうです。博物館のこのような形式の展示は、文化財の保存の観点で最近は難しいのではないかと思います。当館は、とっても来館者フレンドリーで素晴らしいと思いました。

 

 東京国立博物館をはじめとした国立の博物館(現在では、独立行政法人)が、昭和26年に成立した博物館法の対象外の中では、鎌倉国宝館は博物館法を設立の根拠とする博物館の中では、最も充実した博物館の一つだったと思いますし、今もそうだと思います。
 現在(2017年5月20日)は、阿弥陀三尊の特別展示がされています。今回祀られた阿弥陀三尊像は、「慶派のほとけ」とキャッチコピーが付いています。

 

<画像の説明>鎌倉国宝館(鶴岡八幡宮の敷地内に位置します)

 

 1186年には、若き運慶が北条時政に招来されて、伊豆長岡の阿弥陀如来、毘沙門天をはじめとした願成就院の諸像を造りました(*)。運慶の系統が関東地方に根付いていることは、歴史的にも、そして力強い武士のための躍動感豊富な彫刻が多いことも、私達は、実感として持つことができています。そのような背景のなかで、快慶の影響については、考えてもみなかったので、大変楽しみな展示テーマです。
 このことをもう少し説明させて戴きます。私たちは、慶派の作品として、東大寺南大門の金剛力士像を先ずはイメージします。運慶が最初からあのような力強い武士好みの作品をアウトプットした訳でなく、願成就院造像以降の運慶と鎌倉武士との交流が、東大寺南大門の金剛力士像のような力強く躍動感のある作品を生みました。東大寺金剛力士像は、運慶が鎌倉武士に描いていたイメージでした。一方、快慶は関東地方での活躍は希薄です。
 関東地方に安置されているにもかかわらず、展示の阿弥陀三尊は、柔らかで温和で、宋の影響を強くうけた作品です。教恩寺阿弥陀三尊像は、阿弥陀如来立像に対して、左右の菩薩像は中腰です。まるで、京都三千院阿弥陀三尊像の阿弥陀如来如来坐像が立ち上がると、大和坐りしていた左右の菩薩も思わず立ち上がり中腰になった感があります。

 館の説明資料では、肥後定慶の影響を認めつつも快慶の系統に近い面睨とコメントされています。言うまでもなく、秀逸な作品で、今回の特別展は私にとって有意義でした。

 

 ところで、阿弥陀三尊像は、阿弥陀様に向かって右の観音菩薩、左の勢至菩薩をセットにした祀り方です(**)。阿弥陀三尊像の観音菩薩、勢至菩薩の見分け方には、決まりがあまりありません。ほとんど同じ場合もあります。(***)。左右に配置された菩薩の根拠を、ご説明戴いた学芸員にお聞きしたところ、従来お寺に祀られている通りに展示している、長い歴史の中で、入れ替わっていてもわからないとのことでした。

 

(*)慶派(或いは慶派成立前の奈良仏師)と鎌倉武士のつながりは、1185年奈良仏師成朝が頼朝に招来されて、鎌倉の勝長寿院の仏像を造ったのが嚆矢とされます。奈良仏師と鎌倉武士のつながりは、平家滅亡の直後から開始され、更に運慶が発展させました。

 

(**)仏像の解説書では、阿弥陀様と仏像の並びで表現することが多いです。その場合は、左に観音菩薩、右に勢至菩薩と説明されています。仏様の並びはその通りですが、拝観する私たちは、向かって仏様を拝みますので、右が観音菩薩、左が勢至菩薩という方が、分かりやすいので、私はいつもこのように表現させて戴いています。
 ついでに言えば、このような菩薩の配置のルールにこだわるのは、日本ならではです。中国例えば敦煌では、観音様が如来の右側に祀られる例はたくさん見られます。

 

(***)阿弥陀三尊像の両脇侍の比較

<鎌倉国宝館の特別展示>

  右像(観音) 左像(勢至) コメント
金剛寺
左手に具物(1)

両手で具物(1)
秦野市
教恩寺(2)
両手を正面で揃える

正面で合掌
鎌倉市
両菩薩は中腰

(1)蓮の葉を丸めて先に蓮華座のようなものが付いています。固有名詞はわかりません。
(2)正面で揃えた手は、蓮華座が外れた(今は無い)のであれば、下記の三千院と同じ組み合わせとなります。

 

<著名な阿弥陀三尊像の例>

  右像(観音) 左像(勢至) コメント
清凉寺 冠正面に化仏 冠正面に水瓶 京都市
浄土寺浄土堂 冠正面に化仏
左手に水瓶
冠正面に化仏
両手で蓮華座
兵庫県
快慶作
三千院
正面で蓮華座

正面で合掌
京都市
大和坐り

 

 

(追記)

 古い商家に残された、商品或いは材料の搬入出使用されたと思われるトロッコ(荷車)用の線路です。
 鎌倉駅から本殿まで参道を歩く間に見かけた風景です。同行の方の指摘で思わず写真を撮りました。
 同商店は、鎌倉 「三河屋本店」というそうで、検索エンジンでもヒットしますしす。


 

 

 

2017年06月05日