タール寺(青海省西寧)

 タール寺(塔爾寺(*1))は、青海省西寧市に位置します。西寧には多くの日本人が旅しますが、皆さん青海湖(*2)に行かれます。タール寺は、立派なチベット密教の寺院ですが、日本人には、あまり人気がありません。

 中国におけるチベット密教の本拠地は、チベットのラサです。チベット密教について紹介したいのなら、有名なラサのポタラ宮を紹介したいのですが、私は行くチャンスがありませんでした。チベット自治区全土が、現状においても、外務省の危険情報でレベル1(十分注意、危険を避けるためには、滞在には特別な注意が必要)となっています。中国共産党とダライラマ14世の関係を考えますと、簡単では無いです。そのようなこともあって、今回は青海省西寧のタール寺を取り上げました。

 チベット密教は、8世紀から10世紀頃にかけてインドで展開した仏教の1派で、密教の生まれたインドから直接チベットに伝えられました。日本では、チベット密教というよりラマ教という方がポピュラーかもしれません。空海が日本にもたらした真言密教と同根です。

 

<画像の説明>タール寺 入口付近

 チベットは、8世紀頃は、吐蕃と呼ばれ、勢力は盛んでした。吐蕃によって、四川は、何度も蹂躙されましたし、一時期唐の都長安までが占領されたこともありました。また、敦煌をはじめ、河西回廊を勢力下に納めていました。

 唐と吐蕃の抗争については、本編でも取り上げました。「不空と空海の毘沙門天」をご覧ください。
  ➡http://bishamonten.info/custom2.html

 

<画像の説明>タール寺 本殿。

 チベット密教は、中国本土にも影響を及ぼしました。元時代には、サチャ派のパクパは、クビライの信任を得て、中国全土の仏教の統率者としての地位を公認されまた。元時代は、チベット密教の最盛期でした。

 タール寺は、西寧郊外にあるチベット寺院です。チベット仏教ゲルク派(黄帽派)の寺院です。ゲルク派の開祖ツォンカパの生誕地としても知られています。青海省におけるチベット密教の主要拠点のひとつです。

 掲載したタール寺の写真は、同行したA氏の撮影です。いつもご協力をありがとうございます。

 チベット仏教の多くの寺院は、チベット動乱(1956年~1959年)から文化大革命(1966年~1976年)の間に破壊されました。タンカ(*3)等の多くの文化財は破壊されました。

 チベット動乱により、ダライラマ十四世をはじめ各宗派の指導部の大半が、インドに逃れました。そして、宗教を許容しない文化大革命によって止めを刺されました。例えば、カギュー派総本山ツルプ寺は、多量の寺宝を携えてブータンに向いましたが、携帯できず、後に残された美術品は、文化大革命中にダイナマイトで爆破されてしまいました。

 タール寺は、チベットとは異なり、中国国境まで遠く離れており、僧侶を始めとした指導部は海外に逃れることはできませんでした。また、西寧地方は、漢族の住居地域に隣接した地域であり、元来、寺院としての権力が政治的に小さかったため、巧妙に立ち回れた結果だったと言われています。

 現在、中国共産党が、ダライラマ14世率いるチベット密教を圧迫する中で、決してすべての宗教を弾圧しているのではないことを示すため、タール寺をあえて保存・保護していると聞きました。政治色が見え隠れするためか、お寺自体は、信仰の場という点では、ぎこちなさを感じてしまいます。それが、日本人には、あまり人気が無い要因ではないかと考えました。

(*1)塔爾寺(塔尔寺)は、中国での呼び名です。中国の発音は、taersiです。
(*2)青海湖については、下記にて取り上げたことがあります。
     ➡青海湖の問題のある風景
(*3)掛け軸上の仏画。

2018年03月11日