弘明寺(横浜市) 鉈彫十一面観音立像
弘明寺(ぐみょうじ)は、横浜市内では、最古とされるお寺です。本尊は、十一面観音立像で、重要文化財に指定されています。昨年まではお参りだけをさせて戴けませんでしたが、今は、拝観料を納めれば、本像のすぐ側まで行って、お参りさせて戴けます。
画像の説明:画像左または下:弘明寺十一面観音立像 東京国立博物館提供
画像右または上:天台寺(*1)聖観音菩薩立像 東京国立博物館(東北歴史博物館提供)
「みちのくの仏像展」(2015年)のパンフレットよりコピーさせて戴きました。
お寺の説明書きを参考にさせて戴きますと、本尊の十一面観音立像は、ハルニレ(*2)の一木造、181.7cm、平安中期の作です。お寺の由縁には、善無畏(*3)の伝承が残ります。当寺になぜ善無畏の伝承が残るのかは良く分らないそうです。
鉈彫(なたぼり)は、表面にノミ目を残す一木造りの仏像です。鉈彫といいますが、円空仏のように鉈で彫った仏像ではありません。鉈彫は、仕上げを丸鑿(のみ)で削り、ノミ目を際立させる造像様式です。
鉈彫は、表面を仕上げる前の製作途中の作品ではありません。京都、奈良といった仏像の先進地域には存在しません。東日本地の域性が明確であり、しかも、時代的にも平安時代末期(11-12世紀)に集中している点から、今は彫像の一形式とみられています。
改めて、当寺像を見たときに、鉈彫の意味が分かったように思いました。それは、ローソクの光の当り方により、暗いところと明るいところのコントラストがうっすらと現れることです。これは、一寸オーバーな言い方ですが、きらきらと輝き、まるで、金箔を押した金銅仏の趣です。鉈彫像であっても、宝物館或いは博物館では、光の加減が一定で、又、全体的に明るいため鉈彫の効果が表れにくいと思います。ローソクのゆらゆらした光があれば、見事に鉈彫りの凹凸面が浮き上がります。
画像の説明:画像左または下:日向薬師(神奈川県)薬師如来坐像(*4)
画像右または上:日向薬師日光菩薩立像
金沢文庫博物館特別展「日向薬師」(2015年)ポスターより
弘明寺の鉈彫り像の凹凸面は、他の鉈彫り像より断然そのノミ面が浮かび上がります。おそらく、ノミの打ち方が整然としてかつ深いのだろうと思います。又、私が過去に見た他の鉈彫像と違い、当寺の像は、顔にも鉈彫りが施されており、顔にもうっすらと明暗が浮き、顔自体が浮び上がることもその理由と思います。弘明寺像は、間違いなく、鉈彫の最高傑作です。
画像の説明:画像左または下:藤里兜跋毘沙門天立像(岩手県奥州市) 画像右または上:同地天像
(*1)天台寺 岩手県二戸市の天台宗寺院
(*2)漢字表記は、春楡。日本産ニレ科の落葉高木。なお、当像の説明では、カツラの一木と注記した説明書或いはケヤキと記載した説明書もあります。
(*3)善無畏(637年 - 735年)インドの密教僧。大日経を中国にもたらしました。大雑把で恐縮ですが、大日経は、善無畏―不空―恵果―空海と受け継がれ日本にもたらされました。
(*4)日向薬師の薬師三尊像の御開帳は、正月3ヶ日、初薬師(1月8日)、御開帳大法会(4月15日)のみです。