達身寺その1(兵庫県丹波市)

 達身寺は、大阪から福知山線を1時間半ほど、昔の言い方では丹波国に位置します。公共の交通機関がほとんどなく、JR柏原駅又は石生駅からタクシー(或いはレンタカー)に頼るしか到着の手段はありません。達身寺には、阿弥陀如来、薬師如来、十一面観音、兜跋(とばつ)毘沙門天、吉祥天など、80余躯の仏像が納められています。指定文化財としても、国の重要文化財が12躯、兵庫県指定文化財が34躯あります。このことで、何処からともなく、「丹波の正倉院」と呼ばれたとのことです。

 通常では、本尊となる(つまり1つのお寺では通常は1体しかない)尊像ばかり、数十体あることが、達身寺の最大の特徴であり、また最大の謎です。このWEBのメインテーマとなっている兜跋毘沙門天も、1つのお寺に1体が普通ですが、それが当寺には16体あります(*1)。

 

<画像の説明>画像左または下:達身寺本堂 画像右または上:達身寺薬師如来


 そのため、達身寺は、中世には、僧兵を抱えた広大な寺域を持つ有力な寺院があったが、明智光秀の丹波攻め(1573年~1579年)の際に滅んで跡形もなくなり(寺名も伝わらず)、仏像だけが一カ所に集められて残ったという言い伝えがあります。しかし、そのような強勢を誇った寺院が、他の史料にも全く現れず、寺名すら伝わらない或いは一切発掘されないのは奇妙です。

 そのためか、郷土史家の船越昌氏は、1980年代に、同種の仏像が多数あること、未完成の仏像が多い事から、当寺は、丹波仏師の工房・養成所であり、多くの仏師が、造仏に従事していたのではないか、という説を掲げられました。

 この説は、達見です。当寺が工房跡と考えれば、これらの謎が解けるからです。しかし、この工房跡説だけでは、日本全国で100体程度しかなく、それほどポピュラーとは言えない兜跋毘沙門天兜跋毘沙門天が多数祀られていることの説明はできていないと、私は考えました。兜跋毘沙門天ばかりを欲する発願者(スポンサー)の依頼がそれほど多いとも思えないからです。

<画像の説明>達身寺 兜跋毘沙門天立像(左)と吉祥天立像(右)

 

<画像の説明>達身寺 小仏群

 

 ともあれ、現状残る達身寺の兜跋毘沙門天の像容をご説明させて戴きます。同寺の兜跋毘沙門天は、 ①唐風の甲制を着甲している
②宝冠を冠さない
③獅噛がない(下図獅噛を参照下さい)
④直立してまっすぐ前方を睨んでいる(東寺像の様に宝塔の方向を睨んでいない)
⑤吉祥天とペアになっているケースがある(*2)

 

<画像の説明>画像左または下:東寺兜跋毘沙門天立像獅噛
       画像右または上:東寺兜跋毘沙門天立像宝冠


 このような点で、9世紀中頃に中国より請来された東寺兜跋毘沙門天と比べると、かなり和風化が進んでおり、時代的には開きが大きいと考えます(*3)。そのため、当寺の作像年間は、時代はかなり下って考える方がリーズナブルで、像容からは平安時代末期以降のものと考えられます。もう少し極論させて戴きますと、私は、鎌倉時代の造像と考えますが、これについては、次回説明させて戴きます。


 ところで、当寺の毘沙門天は、像容からは、毘沙門天像であることは間違いありません。しかし、すべて手がもがれており、残念なことですが、どれ一つ毘沙門天の特徴の宝塔を確認できないことです。最初に私は考えたことは、地域的に考えて鞍馬寺との関係でした。鞍馬寺の影響があるのなら当寺のケースも宝塔を持たない鞍馬式の毘沙門天の可能性もあると考えていました(*4)。しかし、今残る当寺の毘沙門天像では、その判断は、できませんでした。

 


(*1)現在達身寺には、兜跋毘沙門天が16体残されており、隣接した地域の同形像を含めると21体残っているとのことです。


(*2)最勝王経では、吉祥天と毘沙門天は夫婦と説明されています。兜跋毘沙門天に限らずこれらの2像はペアで祀られることがあります。例えば、法隆寺金堂や鞍馬寺はその例です。鞍馬寺においては、本尊は秘仏ながら毘沙門天、妻吉祥天(右)、長子善弐師童子(左)の組合せで祀られていることは確実だそうです。
  ➡2.7幸福神としての毘沙門天


(*3)日本において最古の兜跋毘沙門天と考えられる東寺像が、9世紀中頃から末頃の中国からの請来であることを本PCの本編にて考証しました。(東寺像が平安京朱雀門の階上に祀られ、朱雀門倒壊東寺に引き取られたことは伝説に過ぎないことも本編でも詳細に述べさせて戴きました。)
  ➡2.3兜跋毘沙門天について


(*4)鞍馬式の毘沙門天像は、左手を高く上げて戟を持ち、右手は宝塔を持たず腰に当てます。これについては、毘沙門天儀軌の「以二手右押左内相叉」を実践したものと考えられています。宝塔を持たない毘沙門天は、鞍馬寺の毘沙門天の特徴です。 詳細は下記に記載しています。
 ➡「鞍馬寺」にリンクします

 

 それにしても、当寺の仏像は、更に多くの特徴を持ちます。そのほとんどが一木造であること、そして、最近注目されている達身寺様式と呼ばれる腹部がふくらんだ独特の像容を持つことです。これらについては、次回紹介させて戴きます。


2018年07月08日