中尊寺(岩手県平泉町) 迦陵頻伽の華鬘
迦陵頻伽(かりょうびんが)は、頭・顔は人、極楽に住み、妙音を出すという仏法上の想像の人/鳥です。羽があって、体は鳥ですが、手もあります。華鬘(けまん)は、須弥壇や仏間を荘厳するため、仏堂内の梁や長押などにかける装飾品です。なお、伽陵頻(かりょうびん)は、天冠をつけ、鳥の翼を付けた童子が銅拍子を打ちながら舞う雅楽で、名前は迦陵頻伽からとったものでしょうが、基本的には本稿とは関係ありません。
中尊寺の華鬘は、従来、当寺の金色堂の須弥壇に飾られていました。金色堂内部の阿弥陀如来を荘厳するためのものでした。今は、新装なった讃衡蔵(さんこうぞう)に保管、展示されています(*1)。全部で6面現存し、いずれも、金銅製、大きさは、約、縦29㎝、横33㎝。奥州藤原時代(12世紀)のものです。宝相華唐草紋透かし彫りの上に、中央に縄目の紐のようなものをたらし、その左右に向かい合う形で迦陵頻伽を配します。
<画像の説明>中尊寺迦陵頻伽の華鬘と部分写真
(中尊寺で購入した絵葉書をスキャンさせて戴きました)
金色堂の須弥壇は、奥州藤原氏の初代清衡、2代目基衡、3代秀衡の3人分の須弥壇ひとつにつき2面の華鬘があり、全部で6面となります。出来栄えとしては、初代清衡のそれが、最も優れているといわれています。
日本では、中尊寺以外、仁和寺所蔵の国宝「三十帖冊子」を収めた宝相華迦陵頻伽蒔絵冊子箱に描かれたものが有名です。
<画像の説明>宝相華迦陵頻伽蒔絵冊子箱表面の迦陵頻伽(東博で購入したクリアファイルをスキャンさせて戴きました。)
更に、丹念に探すとその他にも何点か見出すことができます。
例えば、曼荼羅では、元興寺智光曼荼羅(浄土変相図)に描かれています。また、鎌倉称名寺本尊の弥勒菩薩光背右下に彫刻されています。
昨年三井記念美術館で行われた特別展で迦陵頻伽立像(個人蔵)が展示されました。この像は、展示会の図説によると、鎌倉覚園寺の本尊薬師三尊像の光背に付き、現在は亡失している中の1体であることが指摘されているとのことです。
中国では、敦煌莫高窟の各種経変を描いた壁画においても発見することができますが、迦陵頻伽は特定の時代、特定の経変に表れるものではないようです(*2)。
(*1)1952年には、金色堂にあった華鬘4枚が盗難にあったことがありました。無事戻ってきましたが、以降は、金色院に保管され非公開となっていました。セキュリティーの関係上、博物館の設備を持つ讃衡蔵での公開は致し方ないことと理解していますが、本来の場所の金色堂に戻すことはできないでしょうか。金色堂の荘厳化の一部品だったと思いますので。
(*2)観無量寿経変、薬師浄土経変、阿弥陀浄土経変等に描かれていることがあります。また、時代的にも、初唐(7世紀)から吐蕃支配期(8世紀末から9世紀初頭)まで様々です。